編集者は本当のことは絶対に言わない

編集者は本当のことは絶対に言わない

編集者って何かね?

 

もしも菅原文太にこう詰問された時にあなたは何と答えるだろうか。やはり持参してきたカボチャを前にアワアワしてしまうのではないだろうか。そしてしびれを切らした文太から「客が帰るぞ」とノールックで言われるのである。ただ、私ならこう答えるだろう。

 

「編集者は、嘘つきです」

 

私が思う雑誌編集者は大きく2つに別れる。大雑把に聞こえるかもしれないがとても簡単だ。「編集長をやったことがある人」と「そうでない人」だ。この両者は同じ編集者という肩書ではあるが、まっっっっっっっっっっっっっったく違う。

世の中にどれだけの編集者がいるのか知らないけど、その中でも編集長をやったことのある人間はとても少ないと思う。その生態を捉えたドキュメンタリー番組がなぜないのかと思うほど、奴らは特殊な生物である。

雑誌業界のことを全く知らない人もこのブログを読んでいるかもしれないので、ちょっとだけ説明を入れておこう。「編集部」というのは編集長を頭にして、その次に副編集長がいる。会社や媒体によってもまちまちだが、1人の編集長に1人の副編集長という場合もあれば、1人の編集長に複数の副編集長がいるパターンもある。さらに副編集長の次にデスクがいて、その下にヒラ社員がずらっと居るパターンが多い。副編をデスクと呼ぶパターンもあるし、デスクが居ないパターンも有る。月刊誌は編集長→副編集長→ヒラという簡単な構成が多いが、週刊誌は何班もあるので副編やデスクもうじゃうじゃいたりする。そして各編集者にはそれぞれにお抱えのライターやカメラマン、デザイナー、イラストレーターが付いており、フリーランスの人々は「どの編集者に付いていくか」という嗅覚が必要になってくる。書かないけど色んなネタを提供してくれる「ネタ元」という存在もいる。こういう人々と常にコミュニケーションを持ち、付かず離れずに気を配っていないと「ここぞ」という時に力になってくれなかったりする。
雑誌づくりに欠かせない色んな人が枝分かれして繋がっているのだが、常に輪の中心には編集者がいる。その編集者各々の小さい輪が重なりあって構成されているのが編集部である。そして、その全ての輪の中で最終的な責任を持っているのが編集長だ。それ故、「雑誌は編集長のものだ」と云われる。雑誌が売れなかった時、全ては編集長の責任だ。しかし、売れた時は“みなさんのおかげだ”と言わなければいけない。

 

 

では、編集長の仕事は編集員と何が違うのか。
私は大きく2つあると思っている。


台割りを書く権限がある

台割りとは雑誌の設計図のことであるが、これは編集長にしか書く権利がない。勉強のためと称して部下に書かせている人もいるかと思うが、それはみすみす権利を捨てているようなものだ。台割りには全てのことが書き込まれている。総ページ数・カラーなのかモノクロなのか・企画ごとのページ建て・どこに広告が入るか・誰がどこを担当するのかなどなどである。

まあ、これ文字で説明してもアレだから、BLACKザ・タブーの最終号の台割りをお見せしましょう。はい、これ!

 

 

これを元にスタッフ全員が1冊の雑誌を作っていくわけです(関係者の名前は伏せてあります)。編集長の頭の中を平面に書き起こしたものが台割りなのです。他の人々はこれを立体的に雑誌に見立てて想像しながら作業するんですね。
ちなみにこの台割りは数回書き直した後のものです。やってるとどんどん汚くなっていくので、最終的に清書してデザイナーさんへ送りました。
出版社は星の数ほどあるので、書き方も星の数ほどあると思いますが、私はこんなようなやり方で作っておりました。


予算を動かしている

で、編集長の仕事で一番でかいのはコレなんですよね。お金が動かせるということなんです。どの記事にどれくらいの取材費をかけるか、誰とどこで食事するのか、どういったものを経費で落とすのか、この権現を全て握っているのが編集長なんです。副編集長以下の誰にも与えられていない権限なのです。
つまり、ひとつの雑誌にかけられるお金の限度が決まっていて、それをどう配分して校了に漕ぎ着けるかという責任を1人でおっかぶっているんです。
はっきり言いましょう。
編集長の仕事のほとんどは「数字と睨めっこ」です。
高1の時に数学で3点を取ったこの私がずっと計算ばかりしていたのです。
なんてつまんねえ、なんて退屈な作業なんだ!
大島さんも中園さんも久田さんも、なんで教えてくれなかったんだ!
編集長なんて全然おもんないやんかっ!
毎日毎日数字のことで頭が痛いし、雑誌が売れてないと営業から嫌味を言われ、コンビニから部数を下げると脅されるし、名誉毀損の訴訟はあるし、部下は呑気に経費を馬鹿使い……編集長なんて何にもええことあらへん!

まあ、これね、ちょっと心の弱いやつだと、外注と結託してキックバックとか懐に入れる輩もいると思いますよ。謎のプレッシャーに負けて犯罪に走る人、何人か知ってるもんね。別にバラしてやってもいいんだけど。

編集長とそうでない人

編集者には、この退屈な仕事を強制させられた人と、そうでない人がいます。私の経験上、副編くらいの時が一番呑気で楽しかった。仕事は好きなことができるし、まあまあ肩書があるので無下にはされないし、経費は使えるし。今、上を虎視眈々と狙ってる編集のみなさん、編集長になることをもう一度熟考された方が良いですよ。

 

 

さて、前置きが長いのが私の悪い癖。

編集長は企画会議でそれぞれの編集からあがってきた企画をどう台割りに反映するかを孤独に作り上げる傾向がある。自分だけに与えられた特権という意識が強ければ強いほど独りになっていく。24時間雑誌のことを考え続け、ポツリポツリと台割りに投影していく。いつできあがるのか、どこまでできあがっているのか、それは編集長だけのものだ。

編集長は先月号がどれだけ売れたのかを編集員に話さない傾向が強い。売れた時は「先月はなかなか良かった」とだけ言い、売れなかった時は「まずまず」とか「現状維持」くらいに留めておく。売れなかったことを忘れたい…という気持ちからではなく、自分以外を動揺させてはいけないと考えているからだ。「売れなかった」という現実を編集部で話してしまったらスタッフたちが伸び伸びと仕事ができなくなる。それがまた売り上げ減少に繋がるかもしれないことを恐れている。だから糞みたいな営業会議で嫌味を言われてもグッと堪えて戻ってくる。

編集長は「この締切日を超えると危ない」というデッドラインを誰にも伝えない。1日か2日、かならず猶予日を自分の中で作っておく。そこを破ってしまうのは本当に危険なので絶対に使用することのない猶予日なのだ。編集員は誰もこのことを知らない。

 

そんな編集長のもとにいる編集員はどうだろうか。

編集者は外部スタッフに本当の締め切りを伝えない。25日が締切日だと思っているだろうが、本当の締切日は27日だったりする。
編集者はライターの原稿を良いか悪いか伝えない。合格点ギリギリのところへ修正できるまで曖昧なことばかりを言う。
編集者はデザイナーのレイアウトを良いか悪いか伝えない。合格点ギリギリのところへ修正できるまで曖昧なことばかりを言う。
編集者はカメラマンの写真を良いか悪いか伝えない。合格点ギリギリの写真が出てくるまで曖昧なことばかりを言う。
編集者は自分と繋がっている全てのスタッフに先月号が売れたかどうかを伝えない。編集長が教えてくれないんだから曖昧なことしか言えない。

 

 

2ちゃんねるなんかでどこかの編集部の悪口スレッドがいっぱい立ってるけど、だいたい誰が書いているのか編集者はみんな知っていますよ。だって自分が流した嘘を書いているんだから。

 

 

編集者は毎日いっぱい嘘を付いて、
雑誌を作っているのです。