岡本タブー郎の暴力論(1)

岡本タブー郎の暴力論(1)

先日、とある地方都市にて、とある人物を病院に連れて行こうと車を走らせていました。街の中心部に立地する病院の入口が分かりにくく、ぐるぐる回ってやっと駐車場を見つけました。

その入口で、人の往来を邪魔しているオッサンがいました。車椅子に乗った人を通せんぼしたり、怒鳴ったりしています。どいてくれないと駐車場に入れないし、白昼堂々と何をやってるんだという気持ちで思わず窓を開け、

「オッサン、なにやっとんじゃ!」

と諭すように言いましたが、オッサンはどうも酒に酔っているらしく、今度は私の車の後をつけながら何やら怒鳴っています。やれやれ……とりあえず車を停めてから注意せないかんなと思い、停車後に車を降りると意外にもオッサンが近くにいることが判りました。

「なんどー、われー!」

オッサンは叫びながら、いきなり右の拳を振りかぶっています。私は少しエビ反りをしながら避けようとしましたが、パンチの後半の勢いが左顎に当りました。

ブチッ…………(# ゚Д゚)

猛烈に怒りが噴き上がってきて、気付いたらオッサンの右腕を持っていました。同時に私の右手は硬い拳を作っており、オッサンの鼻の頭めがけてまっすぐにパンチを……

繰り出しませんでした。そのまま右手で携帯を取り出し、警察に電話したのです。理由は2つあります。

1、ヘナチョコ・パンチに笑いそうになった
2、でかい病院の駐車場なので監視カメラがあると考えた

「わしゃ、け、警察が来る前にしょんべんしてくるけえ」
オッサンはそう言い、あきらかに逃げようとしましたので、警備員さんや看護師さんなどを呼び、逃げないようにみなさんに監視してもらいました。

それでも隙を見て何度も外に出ようとするので、

「オッサン、もしまた逃げようとしたら、わしゃ本気であんたの歯を折るぞ。別にわし、捕まって数日出てこれんなるくらい、平気やけんのう」

そう言うとオッサンは病院の待合室にちょこんと座り、「くそぅ、威勢のええ若モンじゃわい」とブツブツ言いながらパトカーが来るまで大人しくしていました。

警察が来てからは私の一人舞台です。
障害者を虐めていたこと、どうやら酒を飲んでるらしいこと、逃げようとしたこと、オッサンの目の前で全て大げさに表現してあげました。オッサンは最終的に、

「はい……私がやりました……」

と素直に認めておりました。酔いが覚めたんでしょう。63歳無職。長い間、無駄に生きてきただけのクソジジイでした。その後、病院へ行き、念の為にCTスキャンしました。全治3日。これは「どうも無い」と言ってるようなものですが、一応診断書を警察に出しておきました。金を返せ。略式裁判やってやろうかと思いましたが、アゴがノーダメージだったので「やめといたら?(笑)」と顧問弁護士。そうね、面倒くさいしなあということで、殴られ損です。しかも、このクソ病院、駐車場の監視カメラはダミーだったのです!

何で被害者側がここまで自分でしないといけないのか…
つまり「全治3日」クソみたいな結果です!

上が治療費。下がこの紙くずみたいな診断書の値段。ファック!

 

その後は警察署で取り調べです。

 

これから手書きの調書(東京なんかはPC使うんですけどね)が書き終わるまで、長く事情聴取されます。もう何度、自分の人生において、取調室に入ったことでしょう。

被疑者として、、、ということが多かったですが、もちろん被害者としても入ったことはあります。

これから、ひとつひとつ、細かく事件を再現し文章化していきます。できあがった調書を警察官が読み上げ、間違っていたら訂正、正しければOKを出す作業が始まります。

オッサンは警察に行くことをビビっていたけど、私はもう取調室なんかで心が動くことはありません。

警察には罪を決める権限はありません。事件を調べ、文章にまとめ、検察へ送ります。それをどうするかを決めるのは検察の役目ですから、警察は何もできないのですよ。

ともすれば「あーなんか落ち着くー取調室」と言い出しかねないほど、懐かしさを噛みしめるように警官の質問に答えていきました。

視聴覚室のような有孔ボードを使った白い壁が黄ばんでいます。どうして、取調室って全国一律で同じような構造なのだろう。ここに被疑者として連れられる時、本当に息が詰まるんだよなあ。

 

……そう、あの時のように。

 

2007年の3月のことでした。
私は当時、中園編集長率いる「実話ナックルズ&ケータイバンディッツ編集部」に所属していました。ひと月に2誌の月刊誌と、廉価書籍を大量に出版する班で、部員はあの時15〜20名ほどいたと思います。私は副編集長でした。

どエロ本と化した「GON!」にいた私をこの1年前にスカウトしてくれた中園さんのために、自分は身を張って鉄砲玉にならないといけないと思っていました。とにかく中園さんの作りたいものを実現しなければならない。そんな毎日でしたが、決してしんどいわけではなく、編集者として楽しく面白い日々を過ごしていました。

5月に『恐怖の都市伝説』というコミックを出す予定で、めちゃくちゃに忙しい時期だったと記憶しています。自分が「編集人」であるコミックスと、レギュラーの実話ナックルズとバンディッツをやらなければなりません。かなりの激務でしたが、私は根っからの仕事人間でしたので、そういう環境もなんのそので突っ走っていたのです。

夜は夜でネタ探しに飲み歩いています。自宅に帰るのは決まって夜中でした。阿佐ヶ谷に住んでいた頃だったと思いますが、旧中杉通りでタクシーを降り、裏手の住宅街を毎日フラフラと歩いて帰っていた記憶があります。

その日も同じく、明け方近くに帰宅し、ソファで爆睡していました。飲んで帰ってきて布団に入らずテレビを見ながらソファで寝てしまうって、サイコーですよね。腰をいわしますケド。

 

朝10時位だったと思います。
会社からの電話で起こされました。
通知を見ると総務部長からでした。
なんだ、珍しいな……
寝起きの声で電話に出ました。

 

「お、岡本くんさあ……
け、警察来てるんだよね……
……君に用があるって
すぐ会社に来てくれる?」

 

まったく意味が分かりませんでした。
でも、心はざわざわしていました。
ざわざわ下北沢です。

毎日おもしろい雑誌を作ろうと奮闘している自分です。いきなり会社に警察が来るなんて理由が分かりません。わけが分かりませんよ。

ただ同時に、
「たぶんGON!のことだな…」
と思いました。

ナックルズに異動して1年、何も悪いことはしていないのです。しているとしたらGON!の時です。詳しい理由は想像できないけど、関わった誰かが何かをしたのかもしれないと考えました。すぐに電話をします。

GON!で一緒だった編集員、島田と福田のことが一番最初に頭に浮かびました。

「うぇ……な、なんスか、朝早く……」

島田も寝ぼけた声で電話に出ます。当時、彼はGON!からメンズナックル編集部に移動していました。

「島田、落ち着いて聞けよ?」

開口一番私がそう言うと、島田の声は低いトーンになり「……どうしました?」と応えます。

「あのな……
理由はわからん。
俺を探しに警察が会社に来てるらしい。
GON!の時のHDD、おまえ持ってたよな?
それ、すぐどこかに持ってけ。
大丈夫おまえらの名前は絶対出さないから、
福田と落ち着いて、ヤバそうなもん隠せ」

すこし丁寧に説明しますが、これは証拠隠滅を図ったという大それたことではありません。このブログで何度も書いているように、当時のGON!はどエロ本路線になっていて、毎日出会い系で女の子とアポを取っては会い(もちろんハッピーメールで)、ホテルに行き、その裸を編集員が撮り誌面にするという仕事をやっていました。それらのデータは危ないので、ネットに繋がっていないPCとだけでやりとりするHDDに保存していました。

ちょっと今さら言いにくいんですが、私はハメ撮りをやりたくてやっていたわけでは当然ありません。これは「会社の業務」として上司から命令されて、精神を病みながらもやっていた「仕事」です。外の人が見たら何と思うでしょうか。まさにブラック企業、鬼畜会社だと思うでしょう。警察がもしそれを「会社ぐるみだ」と断定して捜査に来ていたら……会社を守らなければいけない……もしかしたらナックルズ班の人々の、そしてファッション誌やオカルト誌の仕事まで奪ってしまうかもしれない……このデータを渡すわけにはいかない!……というのが「隠せ」と言った理由でした。

バカだったんですよ。社畜だったんですよ。あの会社が本当に好きだったんですよ(笑)。

 

さて、阿佐ヶ谷から会社のある九段下までは電車を使って40分ほどはかかります。40分あれば気持ちの整理も付き、あれやこれやと想像を巡らしていました。

着いたら、アレを隠そう。
アレも捨てよう。
ああ、パソコン持ってかれるかな。
今日、逮捕されんのかなあ。

ああだこうだと考えながら歩いていると会社が近くなってきました。会社は、西神田の首都高の入り口の真横にあります。高速と平行している一方通行の下道には路上パーキングがあり、そこにはいつも色んな車が停まっていますが、この日は違いました。

パトカー数台と、
真っ白いワゴン車と、
バスみたいな護送車が停まっているのです!

これこれ、こういうやつ!

 

私は思わず、
「何人来とんねん!」
とツッコミました。

会社の玄関に総務部長が立っています。私を見つけて飛んできました。

「待ってたよ、早く、早く!」
――ちょ、M田さん! 何なんスカこれ! 俺、なんかしましたか!?
「僕も分からないよ岡本くん! 40人も刑事が来てるんだよ!」
――よ…40人!? ひ、暇なのかなー!(汗)
「とにかく刑事が怒ってるんだよ! 早く、早く!」

総務部長は「どっちの味方なの?」と思うほど警察に従順です(笑)。彼にせかされるように1階の応接室に入りました。

 

手前右に当時の平田社長、手前左に会長。
テーブルを挟んで対面には、
大勢の刑事らしきおっさんたちがウジャウジャいました。

そして、リーダー格の一人が私に言います。

「君が岡本くんかあ。いやあ、待ってたよ」

 

――つづく――