逆ナンされて付いて行ったら鼻がちぎれた話

逆ナンされて付いて行ったら鼻がちぎれた話

現在、室田日出男みたいなビジュアルの私を見れば誰も信じないと思いますが、その昔20代でエロ本編集者だった頃は女子にまあまあ人気のあった雰囲気イケメンでした。勘違いしないで下さいね、イケメンではありませんよ。雰囲気イケメンです。

特に年上に人気がありました。50代以上からは「グレープの頃のさだまさしみたい!」と言われていました。落ち着いて聞いて下さい。この世代が言うさだまさしってのは今で言う星野源のことです。ちょっと前の小沢健二です。そのちょっと前の岡村靖幸です。その前がさだまさしだったのです。ホラ、人気はあるけど見事に全員イケメンじゃないでしょう?

 

ミリオン出版は「過酷だけど給料だけはイイ」というのが売りでした。私なんかはずっと会社と田村の家で寝泊まりしていたので「基本料金安いプランに変えましょうか?」と東京電力から電話がかかってきたくらいです。使う暇がないので知らない間に金はどんどん溜まっていました。たまの休みになると丸井メンズ館へ行き大量に服を買って来ていましたので、ある程度いい服を着ていました。

今よりも数十キロ痩せていて、若くて、服はまあまあで、あと金髪で、お金もある……そうすると人間どうなるか分かりますか?

 

 

調子に乗っていたんですよ。

 

 

私は若い頃のモテた自慢するオッサンが大嫌いです。なんだか人生を羨んで過去の栄光ばかりにしがみついてるんだなあと思いますし、若い頃はある程度モテて当たり前でしょーよ。自分は若い時よりも今の方が好きだし、今からモテた自慢をしたいわけじゃないのでしっかりと聞いて欲しいんですが、街でよく逆ナンされることがありました。で、それすらも“調子に乗っていた”ので「当たり前だ」くらいの感覚でした。逆ナンされても、奢られたりするのは嫌なのでお金は出していましたが、まあその日遊んでバイバイってなもんでした。だけど1度だけ、面白い逆ナンがあったんですよ。

 

 

「ねえねえ、お兄さんさあ、キャッチの人?」

新宿区役所前で人を待っていたんですが「ちょっと遅れる」というメールが来たのでボォ〜っと待っていた時、同じくさっきから誰かを待っていたお姉さんが話しかけてきました。白いパンタロンにエメラルドグリーンのパンプス、黒の太めのベルトに、胸の前でクロスして首にヒモがかかっている金太郎みたいなキャミソールを着ている無理目っていうんですか、キャバ嬢みたいななかなかいい女でした。顔は、これを書くと怒られそうなんだけど、元モーニング娘。の田中れいなに似ていました。メイクもバッチリでマスカラもびっしり、大きめの口に赤いルージュが目立っていました。私は自分の服装を見る仕草をして、
「ん? これキャッチに見える!?」
と、答えました。その時、私は仕事帰りでJOURNAL STANDARDのウインドブレーカーにメンズビギのTシャツ、ペンキ加工したジーンズにアディダスという出で立ちでした。どう考えてもキャッチには見えません。彼女はクスクスと笑い、
「じゃあ、何やってるの?」
と聞いてきました。
「いや人を待ってたんだけど遅くなるっていうから帰ろうかなとか考えたところ」
と素直に答えました。

 

「あたし知ってるお店があるんだ。飲みに行こうよ」

 

私は自分をイケメンだと思っていませんから、こういうことを言われるとセンサーがピンと働くんですよ。

(出た! これ絶対美人局《つつもたせ》だ! ビール1本で10万円とか言われるやつだ!)

と心の中で小躍りしました。ついに自分にも取材のチャンスが訪れた。これは絶対にわざとハメられるべき案件だ!
「うん、いいよ、じゃあちょっと待ってくれる。相手に『今日は帰る』ってメールするから」
そう言って後ろを向き、カバンの中の財布にいくら入っているかチェックしました。8万円ほどありました。

(よし、これくらいなら惜しくない。「これしかありません(泣)」と言えば何とかなるだろう)

私は振り向き、
「じゃ、行こうよ!」
と笑顔で言いました。

 

 

「あたし、レナっていうんだ。お兄さんは?」

レナちゃんは高校を中退して働いているという18歳でした。見た感じ水商売かな?と思いましたが、特に詳しくは踏み込みません。ここで踏み込んでしまうと相手は警戒しますので、サラッと聞き流すのがインタビューの鉄則です。自分から話しだすまでを待つのです。確か母子家庭だったと思いますが、明るい感じの子でした。歌舞伎町を二人で歩いている時も、知り合いのキャッチに手を振ったり挨拶をしていましたから、このあと酷い目に遭うんだ〜〜と考えるとドキドキしていました。そして風鈴会館の裏手の雑居ビル前に着いた時にレナちゃんが言ったのです。

 

「うっそ! お店、休みみた〜い。お兄さんの知ってる店ある?」

 

私は吉本新喜劇みたいに三歩くらい前にズッコケました。心の中で。ぼったくりバーに休みってあるのかよ! 騙される気満々だった私はレナちゃんに詰問しました。

「他の店ないの?」

レナちゃんは首をすくめて両手を宙に挙げました。アメリカ人か! 私のイライラは止まりません。
「けっこう音楽がいい店だったんだけどな〜。ご飯食べいこうよ〜〜奢るから」
先々と歩いて行くレナちゃん。私は「くそーここがぼったくりビルかー」と住所をメモりながらレナちゃんについて行きました。

その後、タイ料理かなにかを食べ、2軒ほど飲みに行きました。レナちゃんは本当に全部奢ってくれました。2軒目から3軒目に行く途中にやっと私は気付いたのです。

 

(あ、オレ、普通に逆ナンされたのか……)

 

年下に逆ナンされたのは初めてだったので嬉しかったのを覚えています。正直、田中れいなはそんなにタイプではないんですが、まあ男ってアホですからね、好意を持たれると浮足立っちゃうんですよね。
ただ、まだ安心はできません。私を油断させるための“手口”かも知れませんから、ずっと薄い酒を飲んで酔わないように警戒はしていました。

私の心配をよそにレナちゃんは身の上話を始めます。
母親と不仲で高校を辞め、キャバクラで(やっぱり)働いているとか、父親には何年も会っていないとか、彼女の華奢な身体に振りかかるにはけっこうヘビーな内容だなあと思いながら聞いていました。
そのうちだんだんとレナちゃんは酔って来て、「だめだ〜眠い〜〜」と言い始め、バーのカウンターにうっぷしてしまいました。
「じゃあ、レナちゃん駅まで送るよ」
彼女は埼玉に住んでいると言いました。現時点で寝ているようでは埼玉まで帰れないんじゃないかと心配になったので駅へ行くことを促したのです。

 

 

「お兄さんちで、寝たい……」

 

 

カウンターで半分眠りながらレナちゃんが言いました。ついにこの時がやって来たのです。彼女を部屋に連れて帰ったら、おそらく大男が二人くらい部屋に入ってきて暴行され、金品を強奪されるアレです。私は今から犯罪に巻き込まれようとしているのです!

 

(どうする、俺。これはきっとこの女の手口だ。安々と連れて行けば絶対に刈り取られる……まてよ、しかしきっちり鍵を閉めていれば? ドアを叩かれた時点で警察に電話すれば? 取られて困るもんなんてパソコンかカメラくらいだし、部屋に現金はあまりない。カード類も帰ってすぐにトイレの棚の上の方に隠しておけば大丈夫じゃないか? いや待てよ、奴らは犯罪集団だ、蛇の道は蛇、そんなにうまく行くのか? けど、俺はエロ本編集者だ! こんな面白いことをみすみす逃してしまっていいのか? どうする? さあ、俺、どうする!?)

 

「オッケー、レナちゃん、俺んち行こう」

レナちゃんは俺によっかかりながら嬉しそうに「うん」と言いました。花園神社前でタクシーを拾い、当時住んでいた早稲田の自宅へ彼女を連れて帰ったのです。窓越しに見える“これから起きる出来事を想像している私の顔”はとても格好良かっただろうと思います。

早稲田のマンションは1LDKの部屋で布団はいつも敷いた状態でした。そこへレナちゃんを抱えて運んで寝かせました。鍵をかけ、いつもはしないチェーンも下ろしました。財布はトイレに隠したし、カメラとか時計とか分かりやすい金目の物は引き出しや押入れに仕舞いました。

さて、なんだかんだで外は明るくなろうとしています。一眠りして会社に行かなければなりません。自分用の布団を出そうとしたときレナちゃんがムクリと起き上がりました。
「お水、欲しい」
酒に強くないのに強盗稼業とはレナちゃんも大変だなあと思いながらミネラルウォーターをコップに注いで手渡しました。彼女はそれ一気に飲み干すと、キャミソールを脱ぎ上半身はブラだけの姿となり「一緒に寝よ」と言ったのです。

 

さあ、ショーの始まりである。

 

美人局なんてさ、男が素っ裸の状態で脅されるから面白いんですよ。レナちゃんに挿入しようと突き出したケツを後ろから蹴り上げられる自分を想像して脂汗をかきました。これから面白いことが始まるのだ(泣)。私は誘われるがままにレナちゃんを押し倒しました。

ブラを外す時に気付いたんだけど、レナちゃんのCカップくらいのおっぱいとおっぱいの間には縦に入った20センチくらいの傷跡がありました。不思議そうに見ていたら「これね手術したんだ」と彼女は言います。小さい頃に心臓病を患い、大きく胸を開けたことを告白してくれました。そして「こんなの嫌だよね?」と言う彼女に気持ちをグッと揺すられたんです。

 

母子家庭で、母親と仲が悪く、高校を辞めて、働いている……のに心臓病……

 

もうええわ、美人局でも。ここまで綺麗に騙してくれるなら、こっちだって綺麗に騙されたい。レナちゃんを抱きしめて、ゆっくりと衣服を脱がしていきました。彼女はもう、全てを私に委ねています。白いパンタロンを脱がせ、彼女はもう下着1枚の姿でした。華奢で手足の長い10代の女の子の身体と自分の身体が重なり合います。そして充分に湿り気を帯びた最後の布に私は手をかけました。レナちゃんの恥丘は手入れがなされており無毛でした。「おお…こ、これは」と息を呑んで全てを露わにさせた…………その時でした!

 

 

 

 

ぷ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん

 

 

 

 

もう時効だからね。時効だと思うからこんなことを書くんですよ? 私ね、この手のことってとても苦手なんですよ。口にすることはおろか、相手に対して発言することもとってもとっても苦手なんです。いつもね歯に衣を着せぬ物言いでしょ私。でもね、本当にこれに関しては大和撫子なんですよ私。
もうね、ものすごいニオイだったんですよ、アソコが。
ゴルゴンゾーラだかブルーチーズだか知りませんけどね、とにかく何かが発酵しまくったものが下水道を流れているような「舐めるな危険!」なニオイを発していたんですね。そりゃね、色んな女性といたしましたのでね、中にはそりゃあいらっしゃいます。「おや?」ってな感じのね方がね。けどね、それはそれでイイって感じでね嫌いじゃないんです私。なんか逆に興奮するっていうかね。ですからね、そういうことは問題じゃないし、私も平気でマウスをインしてきました。
でも、レナちゃん、そりゃないよ〜〜って。
これヤバイやつだよ〜〜〜何か罹患してるよ〜〜〜レナちゃ〜〜〜〜んって。
絶対になんか大変なことになってるのはすぐ分かりました。

 

しかし、先程も書きましたように、私は他人どころか身内に対しても「ニオイうんぬん」を指摘することが人生の中で最も苦手なことなのです。もし誰かに「臭い」と言われたら、人はみなどう思うでしょうか。それはきっとこの上ないショックだと思います。立ち直れないと思います。生ごみが入った箱を開けて「くさっ」というのとはワケが違うんです。人が人に対してニオイのことを言うのは、「刺されてもいい」って覚悟がなければ言ってはいけないという自分なりの掟が私にはあります。

 

 

私は私の掟に従って、レナちゃんに挿入しました。

 

 

もちろん、念入りにオカモトさんを装着してです。こういう時の為に「分厚い!」を売りにしたゴムが売られててもいいのになあって思います。
メレンゲを作る時に“撹拌”しますよね。アレと同様にレナちゃんも撹拌されて、部屋は異様なニオイに包まれていました。もうこの時点では“美人局”とかどうでも良くなっていました。たぶん違いますし。この子は普通に俺をナンパしたことが決定的でした。そんなことより、レナちゃんと今真剣に向き合うことが最重要課題だったのです!

 

 

 

 

 

 

 

終わったあと、
レナちゃんにすぐ下着を着せて、
二人で昼すぎまで眠りました。

それから、3ヶ月に1回くらいの割り合いでレナちゃんから電話がありました。その都度、待ち合わせて飲みに行き、私の部屋かホテルでセックスをする仲でした。最初の何回かは、とても派手目な格好をしていた彼女でしたが、ある時からジーンズにTシャツみたいなラフなスタイルになっていきました。私がそっちの方が好きそうだから合わせてくれたのか、それとも彼女は元々こっちのスタイルだったのかはよく分かりません。私たちは合う時間も短かったので、そんなにコミュニケーションが取れていなかったと思います。あるのはただ「何となく好き」という空気感だけだったような気がします。

レナちゃんの電話は季節の変わり目になるとかかってきていましたが、やがて2ヶ月に1回、月に1回と期間が短くなってきました。私もそれに応えて会っていたんですが、やはりその、例のニオイは一向に改善する兆しがなく、どんどんストレスになっていきました。電話がかかってきてもだんだん出なくなる自分がいました。

最後に会ったのは、レナちゃんと出会ってから1年後くらいだったかと記憶しています。彼女は久しぶりに私の部屋に泊まりました。翌朝、私がシャワーを浴びてドライヤーで髪を乾かしている時、レナちゃんは鏡越しに立って私にこう言いました。

 

「あたし、結婚するんだあ……」

 

「え?」……よく聞こえなかったのでドライヤーを止めて振り向きました。レナちゃんは脱衣所の壁にもたれながら綺麗に塗られた自分のネイルを見つめています。そして徐ろに私からドライヤーを取り上げ、乾かしてくれながら言ったのです。

 

「だって岡本くん、あたしのことそんなに好きじゃないみたいだし、お見合いしたの」

 

彼女は名古屋の大金持ちとお見合い結婚をしました。とても家訓の厳しい家だそうで、相手の家に入る前に様々な作法を学ばされたそうです。華道とか茶道とか日舞とかを習い、つねに着物でないとお義母さんに怒られるそうで、ため息をついていました。私も興味本位で「家は何をやってるの?」と聞いてみたのですが、知っている老舗だったのでとても驚きました。

 

レナちゃんが結婚して数ヶ月経った頃でしょうか。
夜中に彼女から急に電話が入りました。
何事かと思い電話を取ると意外なことを聞かされました。

 

「もしもし岡本く〜ん? レナだよ。

あのね、旦那にね言われてね病院行ったの。
子供作るんだからちゃんとしろ!って言われて。

なんで怒られたか意味分かんないんだけど、
病院行ったらさぁ〜〜〜

性病だったの。
ウケるでしょ〜〜〜?(笑)」

 

どうやら旦那さんは私と違い、ニオイに対しては過激派だったようでした。レナちゃんは無臭原理主義の家系に嫁いですぐさま病院送りとなりました。診断名は「トリコモナス」、しかも放っておきすぎて膣炎を発症していました。

電話を切ったあと、私は窓を開け、月に向かって言いました。

 

「知ってたよレナちゃん。幸せにな」

 

翌日、すぐに泌尿器科に行きました。診察台にパンツを脱いで仰向けに寝せられ、男の先生にジェルを付けた人差し指をケツに突っ込まれます。前立腺をギュギュと押され、尿道から出てきた液体を採取されました。
けど私は自信がありました。レナちゃんとの性交は全てオカモトさんと一緒だったのですから感染の可能性は低いと睨んでいました。彼女から電話をもらっても動揺しなかったのはそれ故です。
1時間ほど検査の結果を待ち、医者は私に言いました。

 

 

 

 

 

「トリコモナスですね」